弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠 藤 吏 恭
建設現場や工場、造船所などでの作業中にアスベスト(石綿)の粉じんを吸い込んでしまい、数十年という長い潜伏期間を経て、中皮腫や肺がんなどの重篤な病気を発症してしまう。これがいわゆるアスベスト被害です。
このような深刻な健康被害に遭われた場合、労働基準監督署を通じた国からの労災保険給付や、各種の救済給付金を受け取ることができることは、比較的広く知られています。
しかし、それらの公的な補償とは別に、原因となった過去の勤務先である会社に対して、慰謝料や逸失利益といった損害賠償を請求できる可能性があることは、意外と知られていません。
そして、いざ会社に対して適正な賠償金を請求しようとお考えになったとき、多くの方が「弁護士に頼まず、自分で請求できないだろうか」と考えられます。しかし、過去のアスベスト被害についてご自身で会社を相手に立ち向かうことには、想像を絶する困難と大きな壁が待ち受けています。
本コラムでは、国への給付金と会社への賠償金における証拠のハードルの違いから、具体的な証拠集めの方法、そしてなぜアスベストの賠償金請求には弁護士が不可欠なのかについて、埼玉県大宮の弁護士が解説いたします。
国への「労災・給付金」と会社への「賠償金」は証拠のハードルが違う
アスベスト被害の救済において、被害者が取り得る法的な手段は大きく分けて二つあります。一つは国(労働基準監督署)に対する労災保険や給付金の請求、もう一つは原因となった企業に対する民事上の損害賠償請求です。この二つは全く異なる制度であり、求められる証拠のハードルには大きな差があります。
まず、国が運営する労災保険制度は、労働者を手厚く保護することを目的としており、会社側に悪意があったか、安全対策を怠っていたかどうかは問われません。過去にアスベストを取り扱う業務に従事しており、そこで働いたことによって病気になったという事実、すなわち業務起因性および業務遂行性さえ証明できれば、比較的スムーズに支給が認められやすい傾向にあります。
しかし、会社への損害賠償請求はそう簡単にはいきません。
労災保険ではカバーされない精神的苦痛に対する慰謝料や、将来得られたはずの収入である逸失利益を直接会社に請求する場合、被害者の側が、会社に安全配慮義務違反、すなわち会社の過失があったことを、客観的な証拠をもって自ら証明しなければならないからです。
安全配慮義務とは、労働者が生命や身体の安全を確保しつつ働けるように、雇用主である会社が配慮すべき法的な義務のことをいいます。賠償金を請求するためには、当時、会社がアスベストの危険性を予見できたにもかかわらず換気設備を整えなかった、あるいは有効な防じんマスクを支給しなかった、といった具体的な過失を立証する、極めて厳格な証拠が必要となります。
会社への賠償金請求に向けた証拠集めのポイント
会社に対して安全配慮義務違反を追及し、適正なアスベスト賠償金を獲得するためには、大きく三つの視点から証拠を徹底的に集める必要があります。
一つ目は、就労に関する証拠です。どこで、どのような仕事を行っていたかを示すもので、原因となった会社でアスベストにばく露する作業に従事していたことを証明する必要があります。数十年前の出来事であっても、当時の給与明細や雇用契約書、作業日報、出勤簿、さらには現場で撮影された写真や会社の社員名簿などが残っていれば、重要な証拠となります。もし手元に資料がない場合でも、年金事務所で取得できる厚生年金の加入記録や、健康保険の加入記録を取り寄せることで、当時の勤務先と在籍期間を客観的に証明することが可能です。
二つ目は、医学的な証拠です。現在患っている中皮腫や石綿肺、肺がんなどの病気が、確実にアスベストによって引き起こされたものであることを証明する必要があります。これには主治医が作成した診断書だけでなく、胸部レントゲンフィルムやCT画像、病理組織検査の報告書などが不可欠です。特に、アスベストを吸い込んだ方に特有に見られる胸膜プラークがCT画像等で確認できるかどうかは、アスベストばく露を客観的に裏付ける非常に強力な証拠となります。
三つ目は、過失の証拠です。賠償金請求において最大のハードルとなるのがこの過失の証明であり、当時、会社がどのような劣悪な作業環境を放置していたのかを示さなければなりません。具体的には、防じんマスクの支給や着用指導の不備、アスベスト粉じんを排出するための局所排気装置が設置されていなかったこと、アスベストの危険性に関する安全衛生教育が行われていなかったことなどを示す資料が必要です。当時の現場の図面や安全衛生委員会の議事録、作業手順書などがこれに該当しますが、これらを個人で集めることは、至難の業です。
昔の会社が倒産・廃業している場合の証拠集め
アスベストの潜伏期間は二十年から五十年とも言われています。そのため、いざ被害に気づいて会社の責任を追及するための証拠を集めようとしたときには、当時働いていた会社がすでに倒産や廃業をしてしまっているケースが非常に多く見られます。会社自体が存在しなければ、当時の資料を取り寄せることもできず、賠償金の請求など無理なのではないかと、絶望される方もいらっしゃるかと思います。
しかし、会社が消滅していても、賠償金や給付金を請求できるケースは十分にあり、決して諦める必要はありません。
会社に直接資料を求めることができなくても、突破口は存在します。例えば、当時の状況を知る元同僚や職人仲間を探し出し、当時の現場には排気装置がなかった、防じんマスクは配られていなかった、といった作業環境についての証言を得て、これを陳述書としてまとめることは、会社の過失を証明する強力な証拠となります。
また、労働基準監督署に保管されている過去の労災関係の資料や、行政による立入検査の記録、あるいは取引先や元請け企業に残されている施工記録など、過去の行政記録や外部の記録をたどっていくことで、当時の就労状況や労働環境を間接的に浮き彫りにすることが可能です。
合わせてこちらもご覧ください。
👉「勤務先が廃業している」「カルテが残っていない」「退職してから数十年経つ」このような場合でもアスベストの救済は受けられる?
👉【弁護士解説】数十年前のアスベスト被害でも労災申請できる?会社が倒産していても諦めないための手続と条件
過去の会社への賠償金請求をご自身で行うことはできるのか
弁護士費用を節約したいので自分で会社に賠償金を請求したい、とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。法律上はご自身で賠償金請求の手続きを行うことは可能ですが、現実的には難しいのが実情です。
まず、相手となる会社側は、労働者から数千万円規模にのぼる損害賠償請求を受けた場合、ただ黙って支払いに応じることはありません。必ずと言ってよいほど、企業法務や労災トラブルのプロである顧問弁護士を代理人として立ててきます。
法律や交渉の専門家ではない一個人が、経験豊富な企業側の弁護士を相手に、何十年も前の安全配慮義務違反の法的な根拠を論理的に主張し、互角に渡り合うことは極めて困難です。
また、あなたの病気は喫煙が原因だ、当時はアスベストの危険性が分かっていなかったから会社に責任はない、などと激しく反論されることもあります。さらには、本来であれば受け取れるはずの正当な金額からはかけ離れた、不当に安い金額で示談に応じさせられてしまう危険性も、極めて高いのです。
賠償金の証拠集めこそ弁護士へ ―「弁護士会照会」という武器
アスベストの賠償金請求は、法的な知識だけでなく、埋もれた事実を掘り起こす調査力が勝敗を分けます。だからこそ、証拠集めの段階から弁護士に依頼することが大切なのです。
弁護士には、個人にはない弁護士会照会という武器があります。これは、弁護士法第二十三条の二に基づき、弁護士会を通じて官公庁や企業、金融機関、医療機関などに対して、必要な事実関係の報告や資料の開示を法的に求めることができる権限です。
個人が過去の企業や役所に当時の記録を見せてほしいと頼んでも、個人情報の保護などを理由に門前払いされてしまうことが大半です。しかし、弁護士がこの権限を行使することで、個人では決して開示されないような重要な資料を調査できる可能性が開かれます。
たとえご相談の時点で証拠が手元にない状態であっても、アスベスト被害に精通した弁護士であれば、年金記録の解析や過去の労災記録の開示請求、医療機関への的確なカルテ開示請求などを通じて、徹底的に調査を行います。そして集めた証拠を武器に、会社側の反論を法的に論破し、被害に見合った適正な賠償金の獲得を目指してまいります。
会社へのアスベスト賠償金・慰謝料請求は当事務所へ
アスベスト被害による会社への損害賠償請求は、高度な医学的知見と複雑な法律関係が絡み合う、極めて専門性の高い分野です。過去の出来事だから、証拠が手元にないからといって、決してご自身の正当な権利を諦めないでください。
当事務所には労働災害やアスベスト問題に特化した専門チームがあり、被害に遭われた方の苦痛に寄り添いながら、証拠の収集から会社との交渉、そして訴訟に至るまで、一貫してサポートいたします。昔の会社だから無理かもしれない、どのような証拠があればよいのか分からない、といったお悩みをお持ちの方は、お一人で抱え込まずに、まずは一度当事務所へご相談ください。
https://www.g-rosai.jp/bengoshihiyo
なお、費用が気になる方は、上記HPもご参照ください。
ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。
無料電話相談はこちら(スマホの方のみ)





156 レビュー