弁護士法人グリーンリーフ法律事務所 弁護士 時田 剛志
アスベスト被害は中皮腫で潜伏期間が約40年と長く、「退職して数十年経つ」「勤務先が廃業した」「カルテが残っていない」ケースが大半です。しかし労災は国から給付されるため退職後・廃業後でも請求でき、カルテがなくても現在の診断等で立証可能。時効後の遺族には特別遺族給付金、建設業者には建設アスベスト給付金など複数の救済の道があります。各制度には期限があるため、あきらめず早めにご相談ください。
「もう何十年も前に辞めた会社のことだから、今さら救済なんて受けられないだろう」
「当時の勤務先はとっくに廃業している。証明のしようがない」
「病院に問い合わせても、当時のカルテはもう残っていないと言われた」
アスベスト(石綿)による健康被害でお悩みの方、あるいはご家族を亡くされた方から、私たちはこうしたお声をよく伺います。そして、多くの方が「自分のケースはもう手遅れだ」と、相談する前にあきらめてしまっています。
しかし、結論から申し上げます。「退職してから数十年が経っている」「勤務先が廃業・倒産している」「カルテが残っていない」――これらは、いずれもアスベスト被害ではごく当たり前に起こることであり、それ自体が救済を受けられない理由にはなりません。 むしろ、こうした事情がある方こそ、救済制度の対象となる典型的なケースです。
このコラムでは、なぜそう言えるのかを、制度の仕組みとあわせてわかりやすく解説します。
1. なぜ「退職から数十年」が当たり前なのか ―― アスベスト被害の長い潜伏期間
アスベスト被害が他の労働災害と大きく異なるのは、原因となる作業から発症までに、非常に長い時間がかかるという点です。
アスベストは極めて細い繊維で、吸い込むと肺の奥深くに残り続けます。それが長い年月をかけて、中皮腫・肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚といった重い病気を引き起こします。とりわけ中皮腫の場合、アスベストを吸い込んでから発症するまでの潜伏期間は、およそ40年前後にもなると言われています。
つまり、
- 20代・30代で工場や建設現場でアスベストを扱った方が、
- 60代・70代になってはじめて症状が出る
というのは、例外ではなくむしろ典型的な経過なのです。
「退職して数十年も経ってから病気が見つかった」という事実は、決して「もう関係ない昔の話」ではありません。それは、今のご病気と過去の仕事とが結びついている可能性が高いことを示すサインでもあるのです。だからこそ、時間が経っているからとあきらめず、まずは確認することが大切です。
2. 「退職してから数十年経つ」――退職後でも救済は受けられます
労災保険の給付を受ける権利は、退職によって失われることはありません。
これは厚生労働省も明確にしている取扱いです。在職中にアスベストを扱う作業に従事していた方が、退職後に中皮腫や肺がんを発症した場合でも、退職後であることを理由に労災認定が否定されることはありません。請求するのは「過去にその会社に在籍していた事実」と「アスベストにさらされる作業に従事していた事実」であって、現在その会社に勤めているかどうかは関係がないのです。
「もう辞めた会社のことだから」とあきらめる必要はまったくありません。
3. 「勤務先が廃業・倒産している」場合でも救済は受けられます
「証明してくれる会社がもうない」――これも多くの方が不安に思う点ですが、ここにも大きな誤解があります。
労災保険は、会社が支払うものではなく、国(労災保険)から給付されるものです。会社はあくまで保険料を納める立場にすぎません。したがって、勤務していた会社がすでに廃業・倒産していても、労災給付の請求はできます。
たしかに、会社が存在していれば証明書類の作成に協力してもらえる場面はあります。しかし会社がない場合でも、次のような資料を組み合わせることで、就業歴やアスベストばく露の事実を立証していくことが可能です。
- 当時の同僚や関係者の証言
- 給与明細・健康保険の記録・年金記録などの在職を裏づける資料
- 当時の作業内容や使用していた建材・製品に関する資料
会社の協力が得られないケースこそ、こうした資料の集め方や立証の組み立て方に専門的な知見が活きてきます。
4. 「カルテが残っていない」場合でも、あきらめる必要はありません
医療機関がカルテを保存する義務は、法律上おおむね5年間とされています。そのため、数十年前の受診記録となると、すでに廃棄されていることも少なくありません。「カルテがないから因果関係を証明できない」と心配される方も多いところです。
しかし、ここでも道はあります。アスベスト被害の認定では、過去の一枚のカルテだけがすべてを決めるわけではありません。次のようなものを総合して判断されます。
- 現在の主治医による診断書・画像検査(胸部CT等)の所見
- 胸膜プラークなど、アスベストばく露を示す医学的所見
- 就業歴とばく露状況に関する申立てや関係資料
むしろ重要なのは「今、どのような病気にかかっていて、それが医学的にアスベストと結びつくか」という点であり、過去のカルテが残っていないこと自体が直ちに不利になるとは限りません。
不安な点があれば、捨ててしまう前に、一度専門家に「どの資料が使えるのか」を確認することをおすすめします。
5. アスベスト被害で利用できる主な救済制度
アスベスト被害には、状況に応じて複数の救済の道が用意されています。ご自身やご家族がどれに当てはまるのか、整理してみましょう。
① 労災保険給付(働いていた方向けの、もっとも手厚い救済)
仕事中にアスベストにさらされたことが原因で病気になった方が対象です。中皮腫・肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水などが対象疾病とされ、療養(治療費)・休業補償・障害補償・遺族補償などの給付を受けられます。退職後でも、勤務先が廃業していても請求できることは、すでにご説明したとおりです。
② 特別遺族給付金(労災の時効が過ぎてしまったご遺族向け)
「亡くなってから5年以上が経ってしまい、労災の遺族補償給付が時効にかかってしまった」――アスベスト被害では、ご遺族が「労災だったのかもしれない」と気づいたときには、すでに5年が過ぎていることが珍しくありません。
そうしたご遺族を救済するために設けられたのが特別遺族給付金です。アスベスト関連疾病で亡くなった労働者のご遺族で、労災の遺族補償給付を受ける権利が時効(5年)で消滅してしまった方が対象となります。「時間が経って労災が受けられなくなった」という方にこそ、検討していただきたい制度です。
なお、この制度は支給対象・請求期限ともに法改正によって繰り返し拡充・延長されてきた経緯があり、対象となる死亡時期や請求期限には定めがあります。ご自身が対象になるかどうかは、必ず最新の要件をご確認ください。
③ 石綿健康被害救済制度(労災の対象にならない方向け)
労災の対象とならない方――たとえば、アスベストを扱う工場の近くに住んでいて環境的にばく露した方や、被災された方のご家族など――を救済するための制度です。独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)が窓口となり、医療費や療養手当などの救済給付を行っています。「働いていたわけではないけれど、アスベストが原因で病気になった」という方の受け皿となります。
④ 建設アスベスト給付金(建設業で働いていた方向け)
建設現場でアスベストにさらされた労働者や一人親方などを対象に、令和4年(2022年)から始まった比較的新しい制度です。病態の区分に応じて給付金が支給され、労災保険や救済給付を受けている場合でも、あわせて請求できる点が特徴です。大工、内装工、塗装工、配管工、左官工、電工など、幅広い建設関連の職種が対象になり得ます。
⑤ 国・建材メーカーへの損害賠償
上記の給付とは別に、一定の要件を満たす場合には、国や建材メーカーに対して損害賠償(賠償金)を請求できる可能性があります。これは制度上の給付金とは別枠で受け取れるものであり、給付金を受け取った方が、さらにメーカー責任を追及できるケースもあります。
6. 「気づいたとき」が動きどきです ―― 期限にご注意を
ここまでお読みいただいてお分かりのとおり、アスベスト被害には思いのほか多くの救済の道があります。一方で、これらの制度にはそれぞれ時効や請求期限が定められているという、見落とせない注意点もあります。
労災保険の給付には請求の期限があり、特別遺族給付金や建設アスベスト給付金、国・メーカーへの賠償請求にも、それぞれ期限があります。せっかく対象に該当していても、期限を過ぎてしまえば請求できなくなってしまうおそれがあります。
「もう少し体調が落ち着いてから」「家族と相談してから」と先延ばしにしているうちに、貴重な権利が時効にかかってしまうことは、何としても避けたいところです。少しでも心当たりがあるなら、「気づいたとき」こそが動きどきです。
7. アスベスト被害でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください
アスベスト被害の救済は、次のような特徴があり、ご自身だけで進めるのは負担が大きい分野です。
- 制度が複数にまたがり、どれが使えるのかの判断が難しい
- 数十年前の就業歴やばく露の事実をどう立証するかに、専門的な工夫が必要
- 会社が廃業し、カルテも残っていないなかで、使える資料を見極める必要がある
- それぞれに期限があり、時間との勝負になる
「退職してから数十年が経っている」「勤務先が廃業している」「カルテが残っていない」――どれか一つでも当てはまる方も、どうかあきらめないでください。冒頭でお伝えしたとおり、それらはアスベスト被害ではごく当たり前のことであり、救済を受けられない理由にはなりません。
私たちグリーンリーフ法律事務所は、地元・埼玉で30年以上の実績があり、分野ごとに専門チームを設けています。ご依頼をいただいた場合には、専門チームの弁護士が担当いたします。ご本人はもちろん、ご家族を亡くされたご遺族からのご相談もお受けしています。
「自分の場合はどうなのだろう」と思われたら、まずはお気軽にお問い合わせください。一つひとつのご事情を丁寧にお伺いし、利用できる救済の道を一緒に考えます。
ご相談 ご質問 グリーンリーフ法律事務所は、地元埼玉で30年以上の実績があり、各分野について専門チームを設けています。ご依頼を受けた場合、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。
無料電話相談はこちら(スマホの方のみ)
※ 本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案について法的助言を行うものではありません。各制度の対象要件・請求期限・給付内容は法改正等により変更される場合があるため、実際のご相談にあたっては最新の情報をご確認ください。





156 レビュー