| 【この記事のポイント】 「毎日朝早くから夜遅くまで走っているのに、給与明細の残業時間は少ない」――。トラックドライバーの労働時間は、タイムカードよりも、デジタコ(運行記録計)、運転日報、点呼記録の方が、実態を正確に示すことがあります。ただし、これらの記録の多くは会社が持っており、法令上の保存期間が1年のものもあるため、時間がたつと消えるおそれがあります。早めの確保が欠かせません。集めた証拠は、過労による病気の労災申請、会社への損害賠償請求、未払い残業代の請求に使えます。本記事では、ドライバーの労働時間を示す主な証拠、記録の保存期間、証拠を確保する手順と在職中の注意点を解説します。 |
1. 「長く働いている」ことを、どう証明するか
長時間労働が原因で体を壊した、家族が過労で倒れた――。労災の申請や会社への請求を考えたとき、最初の壁になるのが「実際にどれだけ働いていたか」の証明です。
ドライバーの仕事は、営業所を出てから戻るまでの多くの時間を、会社の目の届かない場所で過ごします。そのため、会社のタイムカードだけでは、実際の働き方が見えにくいのが特徴です。一方で、ドライバーの仕事には、運行のたびに記録が残る仕組みもあります。どこに、どのような記録が残っているのかを知ることが、証明の第一歩です。
2. ドライバーの労働時間は、記録に残りにくい
運転だけでなく、荷積み・荷下ろし、荷待ち、車両の点検、点呼なども労働時間に含まれます。特に荷待ちは、「休憩」として扱われ、労働時間から外されていることが少なくありません。
そのため、タイムカードや給与明細の残業時間だけを見ると、実際より大幅に短く見えることがあります。国土交通省も、運行記録計(デジタコ)は荷待ち時間や荷役時間の把握にも有効だとしています。
荷主の都合で待たされている時間も、会社の指示のもとで、順番が来ればすぐに作業に取りかかれるよう待機している時間であれば、休憩ではなく労働時間(手待ち時間)と考えられます。トラックから離れて自由に過ごせない、呼ばれたらすぐに荷役を始めなければならない、といった事情があれば、その待ち時間は労働時間に含まれる可能性が高いといえます。
このほか、次のような時間も、会社の指示や業務上の必要によるものであれば、労働時間に含まれる可能性があります。
- 始業前の車両点検や点呼
- 荷積み・荷下ろしと、ラベル貼りや仕分けなどの付帯作業
- 帰庫後の洗車や日報の記入
- 給油や、営業所内での車両の移動
3. ドライバーの労働時間を示す主な証拠
| 証拠 | 分かること | 主に持っている人 |
| デジタコ(運行記録計) | 走行・停車の時刻、速度、走行距離 | 会社 |
| 運転日報(乗務記録) | 出発・到着・休憩の時刻と場所、荷待ちや荷役の時間 | 会社(本人の控えがあることも) |
| 点呼記録・アルコールチェックの記録 | 業務前・業務後の点呼の日時(始業・終業の手がかり) | 会社 |
| タイムカード・勤怠記録 | 出退勤の打刻 | 会社 |
| 運行指示書・配車表 | 会社が組んだ運行計画と指示 | 会社 |
| ドライブレコーダー | 映像と時刻 | 会社 |
| ETCの利用記録 | 高速道路の入口・出口の時刻 | カードの名義人(多くは会社) |
| 荷主・配送先の受付記録 | 到着・出発の時刻、荷待ちの長さ | 荷主・配送先 |
| スマートフォンの記録 | LINEや通話の履歴、位置情報、写真の撮影時刻 | 本人・家族 |
| 給与明細 | 支払われた残業代や手当 | 本人 |
| 手帳・メモ | 毎日の出発・帰宅時刻 | 本人 |
デジタコには、走行の速度や距離、時刻が記録されます。運転日報(業務の記録)には、休憩や仮眠の日時と場所のほか、一定の場合には、荷主の都合で待たされた荷待ちの時間や、荷積み・荷下ろしの時間も記録することになっています。点呼の記録には、日時のほか、疲労や睡眠不足の状況なども記録されます。これらを組み合わせることで、1日ごとの働き方を具体的に再現できます。
点呼記録は見落とされがちですが、業務前と業務後の日時が記録されるため、始業と終業の時刻を示す有力な手がかりになります。荷主の倉庫で使われている受付や予約のシステムにも、到着時刻が残っていることがあります。
ETCの利用記録は、カードの名義人であれば、利用明細や照会サービスで確認できる場合があります。会社名義のカードの場合は、会社に開示を求めることになります。
4. 記録には保存期間があります
運送会社には、点呼記録、運転日報、デジタコの記録などを保存する義務があります。ただし、これらの法令上の保存期間は1年です。ドライブレコーダーの映像は、さらに短い期間で上書きされることもあります。
一方、タイムカードなど労働時間に関する記録は、労働基準法で保存が義務付けられており、保存期間は現在3年とされています(法律上は5年で、当分の間は3年)。記録の種類によって保存期間が異なる点にも注意が必要です。
また、会社には、働く人の健康を守るために、労働時間の状況を客観的な方法で把握する義務もあります。「記録がない」「よく分からない」という会社の説明は、それ自体が問題になり得ます。
過労の労災では、発症前おおむね6か月間の労働時間が問題になります。倒れてから半年以上たつと、必要な期間の記録が残っていないおそれがあります。記録の確保は、できるだけ早く始めてください。
5. 証拠を確保する手順
- 手元にあるものをすぐに保存する:給与明細、運転日報の控え、スマートフォンの履歴やスクリーンショットを残します。
- 在職中なら、毎日の記録をつける:出発、荷積み、荷待ち、帰庫の時刻を、その日のうちに手帳やスマートフォンに記録します。続けるほど証拠としての信用性が高まります。
- 会社に記録の開示を求める:ご本人やご遺族から、または弁護士を通じて、デジタコや運転日報などの開示を求めます。
- 必要に応じて証拠保全を申し立てる:会社が開示に応じない、廃棄や改ざんのおそれがある場合は、裁判所の手続きで記録を確保できる場合があります。
- 労災申請では監督署の調査も活用する:労災を申請すると、労働基準監督署が会社に資料を求めて労働時間を調査します。手元の証拠を添えると、調査が実態に沿ったものになりやすくなります。
証拠保全は、訴訟を起こす前であっても、あらかじめ証拠を調べておかなければ後で使えなくなるおそれがある場合に、裁判所が記録を確認して保全する手続きです。会社による記録の廃棄や改ざんが心配な場合に検討します。
労災の申請と会社への請求の両方を考えている場合は、どの記録を、どの段階で、誰が集めるのかを最初に整理しておくと、手続きを効率よく進められます。
| 【注意】会社のデータを無断で持ち出さない 会社のパソコンやシステムから、無断でデータを持ち出すことは避けてください。就業規則違反など、別のトラブルになるおそれがあります。どの証拠をどう入手するかは、動く前に弁護士にご相談ください。 |
6. 毎日の記録のつけ方
在職中であれば、ご自身でつける記録も大切な証拠になります。次の点を意識すると、証拠としての信用性が高まります。
- その日のうちに記録する(後からまとめて書いたものは、信用されにくくなります)
- 出発、荷積み、荷待ち、荷下ろし、休憩、帰庫の時刻を分けて書く
- 荷主や配送先の名前、待たされた理由も書き添える
- 手帳やスマートフォンのメモ、家族へのLINEなど、日時が残る方法を使う
- 書き間違いは消さずに、訂正したことが分かるようにする
7. 記録が足りないときの考え方
会社の記録が一部しか残っていない、タイムカードがない、といった場合でも、あきらめる必要はありません。残っている期間の記録から働き方の傾向を示したり、ETCの利用記録や荷主の受付記録、家族とのLINEなど、会社の外にある記録で補ったりすることで、労働時間を積み上げていける場合があります。
大切なのは、一つの記録だけに頼らず、複数の記録を突き合わせることです。例えば、点呼記録で始業と終業の時刻を、デジタコで走行と停車の時間を、運転日報で荷待ちや荷役の時間を確認すれば、1日の働き方をかなり正確に再現できます。
8. 集めた証拠でできること
- 過労による病気の労災申請:脳・心臓疾患の労災認定では、発症前の時間外労働や拘束時間が中心的な判断材料になります(当サイトのコラム「トラック運転手の脳梗塞・心筋梗塞は労災になるか」で解説しています)。
- 会社への損害賠償請求:長時間労働を放置した会社の安全配慮義務違反を示す証拠になります(当サイトの「労災で会社への損害賠償請求をお考えの方へ」もご覧ください)。
- 未払い残業代の請求:残業代の請求は、過去3年分までさかのぼれます。残業代の請求についても、ご相談ください。
9. よくあるご質問
Q. 会社にタイムカードがありません。労働時間を証明できますか?
A. できる場合があります。デジタコや運転日報、点呼記録などを組み合わせて、労働時間を積み上げていきます。
Q. デジタコのデータを自分で見ることはできますか?
A. データは会社が管理しているため、会社に開示を求めるのが基本です。応じてもらえない場合は、弁護士からの請求や、裁判所の手続きを検討します。
Q. 亡くなった家族の労働時間を調べることはできますか?
A. できます。ご遺族から会社に記録の開示を求めたり、労災申請を通じて監督署の調査を活用したりできます。保存期間があるため、できるだけ早くご相談ください。
労災でご家族を亡くされた方はこちらも合わせてご覧ください。
https://www.g-rosai.jp/page-742/
Q. スマートフォンの位置情報の記録は証拠になりますか?
A. なり得ます。位置情報の履歴は、出発や到着の時刻、荷待ちの場所を示す手がかりになります。ただし、設定によっては記録が残っていなかったり、一定の期間で消えたりすることがあるため、早めに保存しておきましょう。
Q. 退職した後でも、会社に記録の開示を求められますか?
A. 求めることはできます。ただし、法令上の保存期間を過ぎた記録は廃棄されているおそれがあります。退職を考えている場合は、在職中から手元の記録を残しておくことをおすすめします。
10. まとめ――記録が消える前に、早めの確保を
ドライバーの長時間労働は、タイムカードだけでは見えにくい一方で、デジタコや運転日報、点呼記録など、運行のたびに残る記録によって証明できる場合があります。ただし、これらの法令上の保存期間は1年と短く、ドライブレコーダーの映像はさらに早く上書きされることもあります。
長時間労働の立証は、どの記録を、どの順番で、どう確保するかで結果が変わります。記録が消える前に、早めにご相談ください。
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【出典・参照条文】
・貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条(点呼等)・第8条(業務の記録)・第9条(運行記録計による記録)
・国土交通省「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」
・労働基準法第109条(記録の保存)・第115条(時効)
・労働安全衛生法第66条の8の3(労働時間の状況の把握)
・民事訴訟法第234条(証拠保全)
・(注)本記事は一般的な解説であり、必要な証拠や入手の方法は個別の事情により異なります。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。




