労災事例4

労災事例(4)
運輸会社に勤め、公道で荷下ろしをしていた根本さん。
公道上にキャリアカー(自動車を運搬する車)を駐車し、商品である車の積み降ろし作業を行っていたところ、後方から走行してきた乗用車が商品の車に追突し、作業を行っていた根本さんが商品の車とキャリアカーの間に挟まれて、死亡(即死)しました。
※労災を説明するための架空事例です。会社名や名前は仮名となります。

1 労災の流れ

車の積み降ろし作業中に第三者の運転する乗用車に突っ込まれて亡くなるという、大変痛ましい事故でした。
ご遺族のご心痛はいかばかりかとお察しします。
本件のような第三者加害事故(第三者行為災害)による死亡の場合、労災と認定されるための要件の一つである「業務起因性」があるかどうかが問題となります。
しかしながら、根本さんは業務(商品となる車の荷下ろし作業)に従事していた最中に交通事故に遭っており、「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること」に伴う危険が現実化したもの(=業務に内在する危険性が現実化したもの)といえ、「業務起因性」はあると認められます。
従って、本件の根本さんのケースも労災に該当し、ご遺族は労災保険から遺族補償給付及び葬祭料の給付を受けられます。
以下、検討していきます。

2 第三者行為災害の届出

第三者の行為によって業務災害が引き起こされた第三者行為災害の場合、被災労働者や遺族は、遅滞なく、災害の事実や被害状況、第三者の氏名・住所等を所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
本件でも、根本さんのご遺族は、まずは速やかに上記届出を行う必要があります。

3 労災給付

(1)遺族補償給付

ア 労災保険から支払われる遺族補償給付

労災保険から支払われる遺族補償給付には、大別して、「遺族(補償)年金・遺族特別年金」、「遺族特別支給金」、「遺族(補償)一時金・遺族特別一時金」があります。

イ 遺族(補償)年金・遺族特別年金

遺族(補償)年金・遺族特別年金とは、被災労働者が亡くなった場合に、被災労働者に生計を維持されていた配偶者等に支払われる給付です。
「生計を維持されていた」とは、もっぱら又は主に被災労働者に生計維持を頼っていた場合のみならず、生計の一部を維持されていたような共働き・共稼ぎの場合も含みます。
また、被災労働者と遺族が別居していたとしても、経済的に扶養されていたなどの生計維持関係が認められれば、この要件を満たします。
受給権者は、配偶者(内縁の配偶者も含まれます)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の内決められた優先順位が一番高い者ですが、妻以外の遺族については、年齢による制限や障害の有無による制限があります。

遺族(補償)年金・遺族特別年金の給付額については以下の通りとなります。

遺族数 遺族(補償)年金 遺族特別年金
1人 給付基礎日額の153日分(但し、その遺族が55歳以上の妻又は一定の障害状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分) 算定基礎日額の153日分(但し、その遺族が55歳以上の妻又は一定の障害状態にある妻の場合は算定基礎日額の175日分)
2人 給付基礎日額の201日分 算定基礎日額の201日分
3人 給付基礎日額の223日分 算定基礎日額の223日分
4人以上 給付基礎日額の245日分 算定基礎日額の245日分

※遺族数…受給権者および受給権者と生計を同じくしている受給資格者の数
※給付基礎日額…賃金(ボーナス等を除く)をもとに計算します。
※算定基礎日額…ボーナスをもとに計算します。

ウ 遺族特別支給金

遺族数に関わらず一律300万円(一時金)が支給されます。
受給権者は、上記(2)の場合と同じです。

エ 遺族(補償)一時金・遺族特別一時金

遺族の中に遺族(補償)年金の受給権者がいない場合には、その他の遺族に対して遺族(補償)一時金・遺族特別一時金が給付されます。
給付額は、遺族(補償)一時金については給付基礎日額の1000日分、遺族特別一時金については算定基礎日額の1000日分となります。
また、この場合にも遺族特別支給金(300万円)が支給されます。

(2)葬祭料

葬祭料の受給権者は遺族等に限りませんが、原則は葬祭を執り行う遺族になります。
給付額は、「給付基礎日額の60日分」か、「給付基礎日額30日分+31万5000円」のいずれか高い方となります(実際にかかった葬儀費用が全額支給されるわけではないことに注意)。
なお、この葬祭料は、現実に葬儀を執り行った後に初めて請求できるものであり、未だ葬儀を執り行っていない段階では受給することができません。

4 加害者に対する損害賠償請求

第三者行為災害の場合、被災労働者または遺族は、加害行為を行った当該第三者(本件では、後方から突っ込んできた乗用車の運転手)に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることが可能です。
特に、労災給付では精神的損害に対する補填はありませんので、慰謝料については加害者(ないし加害者の加入している保険会社)に対して請求していくことになります。
なお、被災労働者が亡くなった場合の慰謝料の額について、裁判例が示す一応の目安は以下の通りです。
 ・被災労働者が一家の支柱の場合  2800万円
 ・被災労働者が母親、配偶者の場合 2500万円
 ・その他の場合 2000万円~2500万円

5 加害者に対する損害賠償請求との調整

上記のとおり、被災労働者または遺族は、労災給付の他に事故の加害者からも損害賠償金を受け取ることが可能ですが、当然ながら二重取りが許されるわけではありません。
このような場合には、労災給付と損害賠償請求とを調整する作業が行われます。すなわち、労災給付を受けたときは、政府が加害者に対して、遺族等に支払った労災給付の額を請求し(求償)、遺族等が先に加害者から損害賠償金を受け取ったときは、政府は、支給する労災給付からその金額を差し引きます(控除)。
なお、慰謝料、物損など労災保険給付の対象外とされているもの、遺族特別年金・遺族特別支給金などは、上記調整の対象となりません。

6 おわりに

労災によって御身内を亡くしたご遺族の方々は、悲しみややりきれない思いを抱えながら、さらにご自身の今後に対してもご不安を感じるところかと存じます。
そんなときは一度、私たちグリーンリーフ法律事務所にご連絡ください。
当事務所では、労災に関する説明や今後の方針などについてのご相談・ご助言を行っております。また、ご依頼いただき、労災に関する手続を進めたり、加害者に対する損害賠償を請求したりすることもできます。
私たちは、皆様のお悩みを解決する一助となれるよう、尽力して参ります。

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