長時間労働などの負荷がかかる労働環境によって脳出血やくも膜下出血、脳梗塞や高血圧性脳症などの脳疾患にかかると、「労働災害」として認定される可能性があります。
労働災害に認定されると、治療費や休業補償、後遺障害に対する補償などを受けられます。
また脳出血やくも膜下出血などの脳疾患にかかった場合の労災認定基準は近年改正されています。どういったケースで労災認定されるのか、基準を知っておきましょう。
この記事では脳出血やくも膜下出血、脳梗塞や高血圧脳症などの脳疾患と労働災害との関係について弁護士が解説します。長時間労働などの負荷がかかる労働環境が原因で脳疾患となった方はぜひ参考にしてください。
1.脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧脳症とは
1-1.脳出血とは
脳出血とは脳内の細い血管が破れて脳組織の中で出血してしまう傷病です。
前兆となる症状がみられず、ある日突然起こるケースも多々あります。
脳内で出血した血液が「血腫」という塊を形成し、それによって脳細胞が破壊されたり周囲の脳組織が圧迫されたりするため、さまざまな脳機能障害を起こす可能性があります。
1-2.くも膜下出血とは
くも膜下出血とは、人間の頭の中にあって脳を守る層である「くも膜」と「軟膜」の間にある「くも膜下腔」という場所で動脈が破裂して、血液がくも膜下腔に流入した状態をいいます。
前兆として、血圧が激しく上昇下降したり急な頭痛がしたり視力低下やめまいなどが起こったりするケースがあります。
1-3.脳梗塞とは
脳梗塞とは、脳内の動脈が閉塞してしまい、血液が届かなくなって脳が壊死してしまう傷病です。
片側の手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、視野が欠ける、めまい、意識障害などの症状が現れて後遺症が残るケースも多数あります。
1-4.高血圧脳症とは
高血圧脳症とは、急激に異常な高血圧状態となることにより引き起こされる脳障害です。
代表的な症状は頭痛や吐き気、嘔吐や意識障害、けいれんなどです。
労働者の方が業務に起因して上記のような脳疾患に罹患した場合、労働災害の認定を受けられる可能性があります。
2.労働災害とは
労働災害とは、労働者が労務に従事したことによって発生したケガや病気、障害や死亡をいいます。略して「労災」とよばれるケースもよくあります。
一般に労働災害というと、工場内でケガをしたなどの事例を思い浮かべる方も多いでしょう。
実際の労働災害には過労死や過労自殺なども含まれます。
労働者に対する重い負荷によって脳疾患となった場合にも、労災認定を受けられる可能性があります。
3.脳疾患になった場合の労働災害認定基準
脳疾患になった場合、どのような基準で労災認定されるのかみてみましょう。
脳疾患で労災認定を受けるには、「業務による明らかな過重負荷」がなければなりません。
脳疾患の発症原因が仕事によることがはっきりしており、かつ医学的に脳疾患の原因となる血管病変などを増悪させることが客観的に認められるような負荷がある場合に「業務による明らかな過重負荷」が認められます。
具体的な判断基準としては、以下の3つの要件を満たすかどうかが検討されます。
● 短期間の過重業務
● 異常な出来事
以下でそれぞれについてみていきましょう。
3-1.長期間の過重業務について
長期間の過重業務は「発症前の長期間にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したとき」に認定されます。
具体的には発症前6か月程度の間において、継続的に長時間労働などの負荷がかかっていたかどうかが評価されます。
「特に過重な業務」とは、日常業務に比較して特に重い身体的精神的負荷を生じさせると客観的に認められるような業務です。
著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したかどうかについては、以下のような観点から客観的かつ総合的に判断されます。
● 業務内容
● 作業環境等
● 同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務といえるか
労働時間については、以下のような場合に「疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務」と認定されやすくなります。
● 発症前1か月間から6か月間にわたり、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働をしていた
● 発症前1か月間に100時間または発症前2か月間から6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労をしていた場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる
また労働時間以外にも負荷要因があったと評価できる場合、労働時間の状況と合わせて総合的に考慮し、業務と発症との関連性が強いといえるかどうかが判断されます。
3-2.短期間の過重業務について
短期間の過重業務とは、発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したことをいいます。
この場合の短期間とは、発症前の1週間程度です。
発症前1周間の間に特に過重な業務に携わったかどうかについては、以下のような観点から総合的、客観的に判断されます。
● 業務内容
● 作業環境
● 同種の労働者におとっても特に過重な身体的、精神的負荷と認められるかどうか
また業務と発症との期間はなるべく短い方が業務と発症との因果関係が認められやすくなります。
そこで、以下のような基準で短期間の過重業務があったかどうかが判断されます。
● 発症直前から前日までの間の業務が特に過重でなかった場合であっても、発症前の1週間程度の間に過重な業務が継続している場合には、業務と発症との関連性があると考えられる
労働時間との関係でいうと、以下のような場合に特に業務と発症との関連性が強いとされています。
● 発症前の1週間程度、継続して深夜に及ぶ時間外労働を行っていたなど
3-3.異常な出来事について
脳疾患で労災認定されるかどうか判定する場合「異常な出来事」があったかどうかも考慮されます。異常な出来事とは、「発症直前から前日までの間に、時間や場所を明確にできる異常な出来事に遭遇したこと」です。
たとえば以下のような場合に「異常な出来事」が認められやすくなります。
業務に関連して重大な人身事故に遭ったり遭遇したりした場合、精神的に負荷のかかる救命作業に従事した場合などです。
● 急激で著しい身体的負荷があった場合
著しい身体的負荷を伴う消火活動や人力での除雪作業を行った場合などです。
● 急激で著しい作業環境の変化があった場合
著しく暑い環境化で水分補給も十分にできない場合、著しく寒い環境や温度差のある場所へ頻繁に出入りしなければならない場合などです。
4.脳疾患で労災認定を受けられた場合に支給される給付金
脳出血やくも膜下出血などの脳疾患で労災認定を受けられると、以下のような給付金が支給される可能性があります。
傷病の治療費の支給を受けられます。
● 休業補償給付
休業した場合に平均賃金の8割程度の保障を受けられます。
● 障害補償給付
後遺障害が残った場合の給付金です。
● 傷病補償給付
重篤な傷病となり1年半が経過しても症状固定しない場合に受け取れる給付金です。
● 介護補償給付
介護が必要となった場合に支給される給付金です。
● 遺族補償給付
労働者が死亡した場合には遺族への支給があります。
● 葬祭料
労働者が死亡した場合には遺族へ葬祭料が払われます。
5.脳疾患になったときの注意点
労働者の方がある日突然脳疾患になった場合、ご本人もご家族も業務に起因するとは思わないケースが少なくありません。しかし実際には業務と脳疾患との関連性が認められるケースもあります。脳疾患にかかる前に負荷のかかる労働をしていた場合には、労災認定を検討しましょう。
グリーンリーフ法律事務所では労災認定のサポートに力を入れています。
脳出血やくも膜下出血、脳梗塞や高血圧脳症などにかかってしまった労働者の方、ご家族様がおられましたらお気軽にご相談ください。
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