労働災害の中には、長時間労働によって、うつ病に罹患し、自死してしまうというケースがあります。

超有名な判例としては、【電通事件】があります。
日本経済のバブル崩壊が起こった1991年、その年の8月頃に、電通の社員が自殺したケースは、最高裁判所まで争われました。

最高裁での争点は、【労働者の性格(心因的要因)が損害賠償に与える影響はあるか】という点です。

つまり、高等裁判所では、自殺が労働災害に起因することは認めつつ、労働者の性格を以下のとおり認定し、過失相殺を定める民法722条2項を類推適用し、30%もの減額をしました。

「うつ病親和性ないし病前性格があったところ、このような性格は、一般社会では美徳とされるものではあるが、結果として、(労働者)の責任ではない業務の結果についても自分の責任ではないかと思い悩む状況を生じさせるなどの面があったことを否定できないのであって、前記性格及びこれに基づく(労働者)の業務遂行の態様等が、うつ病り患による自殺という損害の発生及び拡大に寄与している」

しかしながら、最高裁は、以下のとおり述べ、労働者の性格を加味して30%を減額するという処理を、真っ向から【否定】しました。

「企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものということができる。しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができるのである。したがって、労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである」

そうして、電通事件における労働者の性格についても、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めることはできないと判断し、この点に関する高裁の判断は、法令の解釈適用を誤った違法がある、と判断しています。

(最判平成12年3月24日判決)

実務では、往々にして、労働者側の落ち度が指摘され、過失相殺を会社側から主張されることはあります。

ただ、その適否(及び割合)については、極めて慎重な判断が求められます