紛争の内容(ご相談前の状況)
依頼者は、大学に通いながら、アルバイト先へ原付バイクで通勤していた学生の方です。その日も、いつものようにアルバイト先へ向かう途中、交差点で自動車と衝突する事故に遭われました。
この事故で依頼者様は足にけがを負い、ボルト固定など、長期間の治療を余儀なくされました。治療は続けましたが、残念ながら、「頑固な神経症状」が残ってしまいました。
本件は、加害者(自動車側)への損害賠償請求という「交通事故」の側面と、アルバイト通勤中の「通勤災害(労災)」という、2つの側面を持つ事案でした。
どう進めるのが最適か、ご本人がお悩みになっている状況で当事務所にご依頼されました。
交渉・調停・訴訟等の経過(当事務所の対応)
ご依頼を受けた弁護士は、本件が通勤災害にも該当することに強く着目しました。
交通事故で後遺障害を申請する場合、通常は加害者の「自賠責保険」に対して行いますが、特にむちうち症などの神経症状は、等級が認められにくい(非該当となりやすい)傾向があります。
そこで弁護士は、あえて自賠責保険への申請(被害者請求)は行わず、先に「労災保険」に対して後遺障害(障害補償給付)の申請を行うという戦略を選択しました。これは、労災保険の認定機関(労働基準監督署)の方が、より中立的かつ客観的な基準で障害の等級を審査するためです。
弁護士は、依頼者様が適切な検査(MRIなど)を受けられるようサポートし、主治医に症状の実態を正確に反映した後遺障害診断書を作成していただきました。その上で、事故態様や症状の一貫性を補足する意見書を添えて、労働基準監督署に申請を行いました。
本事例の結末(結果)
弁護士による申請と主張が認められ、労働基準監督署は、依頼者様の足に残った頑固な神経症状を「後遺障害等級12級12号」に該当すると、正式に認定しました。
先に労災保険で12級12号という客観的な等級が認定されたことで、この後の加害者側(任意保険会社)との損害賠償交渉(交通事故としての対応)において、この等級を前提とした、極めて高水準の賠償金(後遺障害慰謝料や逸失利益)を請求するための材料を確保することに成功しました。
本事例に学ぶこと(弁護士からのアドバイス)
アルバイトやパートであっても、自宅と職場を合理的な経路で往復する途中の事故であれば、学生でも「通勤災害」として労災保険が適用されます。
そして、後遺障害が残りそうな場合、必ずしも相手方保険会社や自賠責保険の判断を待つ必要はありません。本件のように、先に労災保険に対して後遺障害の申請を行う(これを「労災先行」といいます)ことは、より公正で、有利な等級認定を得るための極めて有効な戦略の一つです。
労災で認められた等級は、その後の交通事故の示談交渉においても、相手方保険会社が覆すことが困難な「客観的な証拠」となります。
通勤中の事故でお怪我をされた場合は、交通事故と労災の両方に精通した弁護士に、ぜひ一度ご相談ください。
弁護士 時田 剛志





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