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金属プレス製品の製造会社に勤め、ボール盤で穴あけ作業をしていた関根さん。
上司に言われて軍手をつけて、ボール盤でのステンレス板の穴あけ作業をしていると、ボール盤の台上にあったゴミを取り払おうとした際に、回転中のドリルに手袋が巻き込まれてしまいました。
その結果、指を切断するけがを負ってしまいました。
後から分かったのは、手袋は巻き込まれるおそれがあることから、素手で行うべきということでした。
※労災を説明するための架空事例です。会社名や名前は仮名となります。
1 労災の流れ
指の切断ということで、ご本人はもちろん、ご家族の方もご心配、ご不安な思いをされたと思います。
今回の事例では、関根さんは、仕事中に機械に巻き込まれて指を切断してしまったので、労働災害の申請をしたら、様々な給付を受けることが出来ます。
では、どのような労災保険給付が受給できるのかというと、おおむね次の図のようになります。
大別して、①治療を進める段階と、②症状固定後に後遺障害が残ってしまった段階とに分かれます。
①治療を進める段階
治療を進める段階では、治療費が発生しますので、療養給付を受けることにより、その全額を給付してもらえます。
また、お仕事をすることもできない場合には、休業給付を受けることにより、所定の金額(※)を給付してもらえます。
(※)所定の金額とは、原則として、「給付基礎日額」(=災害が発生した日以前3ヵ月間に被災した労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った額)が、休業1日につき、給付基礎日額の60%、加えて、給付基礎日額の20%が特別支給金として支給されます。
また、療養開始後1年6か月が経過しても治ゆせず、後遺障害等級(第1級~第3級まで)に該当するときは、傷病年金として、給付基礎日額の313日~245日分の年金が支給されます。
②症状固定後に後遺障害が残ってしまった段階
症状固定後に後遺障害が残ってしまった段階では、障害給付の対象となります。
具体的には、後遺障害等級が第1級~第7級の場合には、給付基礎日額の313日~131日分の障害年金を給付してもらえます。
また、第8級~第14級の場合には、給付基礎日額の503日~56日分の障害一時金が1回、支給されます。前者の障害年金については、後遺障害が治るか亡くなられるまでの間、継続して、支給され続けます。
後遺障害等級は、第1級が最も重く、第14級が最も軽い後遺障害があります。
手の指を切断してしまった場合は、以下の通りの認定がされます。
2 手の指を切断してしまった場合の後遺障害等級
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
3級5号 | 両手の手指の全部を失ったもの |
6級8号 | 1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの |
7級6号 | 1手の親指を含み3の手指又は親指以外の4の手指を失ったもの |
8級3号 | 1手の親指を含み2の手指又は親指以外の3の手指を失ったもの |
9級12号 | 1手の親指又は親指以外の2の手指を失ったもの |
11級8号 | 1手の人差し指,中指又は薬指を失ったもの |
12級9号 | 1手の小指を失ったもの |
13級7号 | 1手の親指の指骨の一部を失ったもの |
14級6号 | 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
※「手指を失ったもの」とは?
親指の場合は指節間関節以上を失ったもの,その他の手指の場合は近位指節間関節以上を失ったものがこれにあたります。
※「指骨の一部を失ったもの」とは?
指骨の一部を失っていることがエックス線写真等により確認できるもののことをいいます。
3 会社に対する損害賠償請求等の流れ
労災給付を受け取ったとして、それ以外の金銭は受け取れないのでしょうか。
実は、会社に対して、損害賠償請求を行使できる可能性があります。
賠償請求のタイミングは、多くの場合、症状固定後になります。
労働災害は、労働者が会社のために労力を提供している中で起きることが大半です。
使用者である会社としては、労働者が安全に業務を遂行するよう様々な配慮をし、安全策を講じなければなりません。
そのような策を講じず、あるいは不十分であったために生じた労災については、会社も賠償責任を問われることになります。
そして、労災により給付される金額は、会社の損害賠償請求できる金額の一部に過ぎないことが大半ですので、労災給付とは別に、損害賠償を請求することが可能です。
例えば、今回の事例で【8級3号】にあたるとします。
その場合、労災からは、特別支給金65万円+給付基礎日額の503日分の一時金がでます。
給付基礎日額とは、簡単に言うと、1日あたりの給料です。仮に1万円とすると、503日分がでると、503万円の一時金が支給されるということになります。
それでは、労災からこのような金額がでたとして請求できるは、これでおわりでしょうか。
実は、労災からは、「慰謝料」はでないので、これは会社に請求することができます。
8級3号の場合の基準慰謝料は、830万円です。
今回の事例では、本当は素手で作業をしないと危ないのに、「上司の命令で」軍手をつけて事故にあいました。
これは、会社の「安全配慮義務違反」と言えるので、会社に慰謝料を請求できる可能性が高いと言えます。
4 過失相殺
ところで、損害賠償請求では、過失相殺といって、労働者の落ち度を指摘されることもあります。
過失が認められれば、損害額から過失割合分を減額(民法722条2項の類推適用)される可能性もあります。
今回の事例では、実は会社では軍手をつけないように指導されていたという場合、いくら上司の命令でつけたとしても、「軍手をつけてはいけない」ということは関根さんも認識していた可能性があります。
そこで、関根さんの過失は20%(例です。)だという具合に、過失が決められます。過失がある場合は、その分が損害から引かれます。
5 おわりに
労災に遭われた方及びそのご家族の方は、治療等の労力にとどまらず、労災手続のこと、将来の仕事、経済面での不安、会社との交渉をどのように進めるべきか、どのような証拠をどうやって集めたらいいのかなど、心配事が尽きないのが通常です。
労災の事件処理は複雑な面がありますので、労災に関する手続や経済面での不安については、弁護士にご依頼いただくことも選択肢の一つです。
私たちグリーンリーフ法律事務所の弁護士は、少しでもご負担を軽減することや妥当な賠償を受けることに繋がるよう尽力いたします。
お悩みの方は、まずは弊所までお気軽にお問合せください。
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労働災害(労災)に関するご相談は、初回30分まで無料です。
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