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IT企業に勤め、長年にわたって長時間労働をしていた五十嵐さん。
ある日、夜遅くまでパソコンを用いて作業をしていたところ、突然、脳に激痛が走り、意識を失ってしまいました。
救急搬送され、治療を受けましたが、脳梗塞を発症したことが分かりました。
結局、後遺症として、麻痺や言語障害が残りましたので、働けなくなってしまいました。
※労災を説明するための架空事例です。会社名や名前は仮名となります。
1 労災の流れ
ご本人はもちろん、ご家族の方もご心配、ご不安な思いをされたと思います。
今回の事例では、五十嵐さんは、長時間労働をしていたので、労働災害が認定される可能性があります。
なお、認定に当たっては、厚生労働省が発表している「脳・心臓疾患の認定基準」なども参考になります。
労働災害が認定されれば、労災保険給付が受給できます。
では、どのような労災保険給付が受給できるのかというと、おおむね次の図のようになります。
大別して、①治療を進める段階と、②症状固定後に後遺障害が残ってしまった段階とに分かれます。
①治療を進める段階
治療を進める段階では、治療費が発生しますので、療養給付を受けることにより、その全額を給付してもらえます。
また、お仕事をすることもできない場合には、休業給付を受けることにより、所定の金額(※)を給付してもらえます。
(※)所定の金額とは、原則として、「給付基礎日額」(=災害が発生した日以前3ヵ月間に被災した労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った額)が、休業1日につき、給付基礎日額の60%、加えて、給付基礎日額の20%が特別支給金として支給されます。
また、療養開始後1年6か月が経過しても治ゆせず、後遺障害等級(第1級~第3級まで)に該当するときは、傷病年金として、給付基礎日額の313日~245日分の年金が支給されます。
②症状固定後に後遺障害が残ってしまった段階
症状固定後に後遺障害が残ってしまった段階では、障害給付の対象となります。
具体的には、後遺障害等級が第1級~第7級の場合には、給付基礎日額の313日~131日分の障害年金を給付してもらえます。
また、第8級~第14級の場合には、給付基礎日額の503日~56日分の障害一時金が1回、支給されます。
前者の障害年金については、後遺障害が治るか亡くなられるまでの間、継続して、支給され続けます。
後遺障害等級は、第1級が最も重く、第14級が最も軽い後遺障害があります。
五十嵐さんが、後遺障害等級の何級に認定されるかは、具体的な医学的資料を精査してみないと分かりませんが、麻痺や言語障害の程度によれば、第3級3号の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」などに当たる可能性もあります。
2 会社に対する損害賠償請求等の流れ
労災給付を受け取ったとして、それ以外の金銭は受け取れないのでしょうか。
実は、会社に対して、損害賠償請求を行使できる可能性があります。賠償請求のタイミングは、多くの場合、症状固定後になります。
労働災害は、労働者が会社のために労力を提供している中で起きることが大半です。
使用者である会社としては、労働者が安全に業務を遂行するよう様々な配慮をし、安全策を講じなければなりません。
そのような策を講じず、あるいは不十分であったために生じた労災については、会社も賠償責任を問われることになります。
そして、労災により給付される金額は、会社の損害賠償請求できる金額の一部に過ぎないことが大半ですので、労災給付とは別に、損害賠償を請求することが可能です。
五十嵐さんの場合、損害賠償の具体的な項目として考えられるのは、
- 治療費
- 入院雑費
- 入院付添費
- 自宅付添費
- 通院付添費
- 将来介護費
- 通院交通費
- 将来の通院交通費
- 家屋改造費
- 損害賠償関係費
- 休業損害
- 後遺症による逸失利益
- 入通院慰謝料
- 後遺症慰謝料
など、さまざまです。
後遺障害等級が重ければ重いほど、損害賠償請求額も大きくなるのが通常ですので、まずは、どのような後遺障害等級がとれるのかがいわば損害賠償請求の前哨戦ともいえます。
なお、労災給付のうち、一部分は、既払いとして差し引く必要はありますし、後遺障害の内容・程度、年齢や従前の収入、家庭の状況等により、金額は異なりますが、基本的には、労災給付のほかにも、損害賠償請求をすることができると考えてよいでしょう。
ところで、損害賠償請求では、過失相殺といって、労働者の落ち度を指摘されることもあります。
過失が認められれば、損害額から過失割合分を減額(民法722条2項の類推適用)される可能性もあります。
ただ、電通事件という最高裁判決(※)では、労働者の性格を過失相殺として加味した下級審の判決を蹴って、労働者の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を心因的素因として斟酌することはできないとし、過失相殺の類推適用を否定しました。
会社からの安易な過失相殺の主張に対しては、十分な検討が必要です。
(※)詳しくは、労災コラム(労働者の性格が損害賠償に与える影響(過失相殺)は?)をご参照ください。
3 おわりに
労災に遭われた方及びそのご家族の方は、治療等の労力にとどまらず、労災手続のこと、将来の仕事、経済面での不安、会社との交渉をどのように進めるべきか、どのような証拠をどうやって集めたらいいのかなど、心配事が尽きないのが通常です。
労災の事件処理は複雑な面がありますので、労災に関する手続や経済面での不安については、弁護士にご依頼いただくことも選択肢の一つです。
私たちグリーンリーフ法律事務所の弁護士は、少しでもご負担を軽減することや妥当な賠償を受けることに繋がるよう尽力いたします。
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